元・都知事候補の頓珍漢と重なるもの

不登校情報センターの所在地である東京の、2016年・都知事選挙が終わり、小泉劇場ならぬ小池劇場のすえ、第18代都知事には別名“緑の党(人間の赤い血は流れているのか?緑の血が流れているんじゃないのか?党)”こと小池百合子氏が2位以下に百万票以上の差をつけて大勝しました。
初めから自民党は密かに小池推しで、相応の実績をお持ちで行政経験者の増田氏はダミー(もし当選しても十分使える人材となる)、そして弁護士・宇都宮氏を立候補させない為にクセのあるジャーナリスト・鳥越俊太郎氏をけしかけた(宇都宮氏が当選するのは難しいだろうが、清廉な宇都宮氏が出馬して負けるよりも、鳥越氏が落選したほうが野党共倒・・・じゃなかった野党共闘の鳥越氏が落選したほうが野党全体のイメージ悪化を図れる気がしますので。


都知事と言えばかつて、「シベリア抑留」に関して、こんな頓珍漢な事を仰った都知事候補の方がいたようです。

「強制労働という言葉を使う人がいますが、働いてノルマをさえはたせば食糧を配給してくれるというのが実態であり、それを日本にいた当時は、土方のような仕事をしていた人や、失業者であった人たちは、『ソ連という国は天国だよ。働きさえすればちゃんと食えるんだから』といいますし、仕事もしないで親のスネをかじっていたお坊っちゃんめいた人は『強制労働をやらせやがった』という表現をとるのです」
日本青年出版社『共産主義のはなし』畑田重夫(1968/10/25)

「です・ます」調の一見丁寧な文章に見せておいて、その実は無茶苦茶な内容を、かなり強引な断定文を用いて、(特に文末で)たたみ書ける手法は「どこかで」見た気がしますが・・・

成果主義の否定や、結果の平等や、福祉の充実を謳う、革新思想の人の発言とはとても思えません。
米ソ冷戦下、「●●主義者」という立場上、是が非でもソ連肯定ありきの為の強引な歴史解釈をした結果でしょうか。
「働きさえすればちゃんと食えるんだから天国」。先進国から狩猟採集民族まで、世界中どこだってそうでしょう。働いて通貨を得たり、食料を狩猟採集しなければ、飢える。
「食糧を配給してくれる」・・・近代の戦争において、捕虜を生存させるのは捕らえた側の義務のはずですが、大戦下の国防婦人会の如く「お国が食糧を配給して下さる」的な、思想の左右混沌がみえる無節操さです。

シベリア抑留は、働いてノルマを果たさなければ積極的な死が待っている、という嬉しくないオマケ付きです。「過酷な環境で働いても劣悪な待遇しか保障されず、逆らえば殺される」なら、「労働環境は極めてブラックだが、無事に帰港できれば、陸(おか)での仕事の10倍の報酬が出た」という『蟹工船』以下でしょう(高く売れるカニ缶を作っているのに労働環境ガーッ!これが搾取の構図だゼ!と、あくまでブラック労働を追及し革命へ駆り立てる為の「プロレタリア文学」なので、作品の追及力を減衰させる報酬についての記述はあえて不十分です)。
それ以前に「戦争が終わったのに捕虜を帰国させず奴隷にする」というのは、日本の敗戦についてのポツダム宣言にも反します。

この元・都知事候補者が本を著した時代においては、すでに先進国では「病気障害や貧困スパイラル等で働けない人には、衣食住や文化的に最低限度の生活を営む為の金品を援助する」福祉制度が導入されていました。おりしも本が世に出た1968年(昭和43年)は、「革新自治体の旗艦」として有名な美濃部氏が都知事に初当選(圧勝ムードの小池都知事よりも得票数が多い)した翌年であり、薔薇まき先を土木公共事業から福祉へ転換し、福祉の一層の充実が図られた時代です。そんな時代に「仕事もしないで親のスネをかじっていたお坊っちゃんめいた人」という発言は、現代の引きこもり批判(ひきこもりヘイト)にも通じる雰囲気が有ります。

引きこもり批判(ひきこもりヘイト)で頻繁に登場する「働かざる者食うべからず」という言葉は、かつて左翼陣営の神であるレーニンが、原典となった聖書の「文そのままの意味」を「進歩」させて「労働者に働かせて不労所得をむさぼっている資産家こそ働かざる者だから、彼らこそ食うべからず、である。彼ら富裕層を世界から追い出せ」とぶち上げたのですが、まさかソ連信仰が根強かった当時の革新思想者から「仕事もしないで親のスネをかじっていたお坊っちゃんめいた人」等という現代の保守的な引きこもり批判論(引きこもりヘイト論)とソックリな発言が出ていたのは驚きです。
(「健常者なのに」仕事もしないで「遊んで」親のスネを・・・という趣旨かも知れませんが、そんな資産家のお坊ちゃまは人口比率からして極々一部で、仮にアメリカの富豪が行うようにマスコミに意見広告を出稿しまくって多数派工作を夢想したとしても、件の都知事候補氏が無視できない程度にまで、世論の一端を形成するのは難しいでしょう)


かつての都知事候補の頓珍漢な発言にたがわず、「不登校・ひきこもり支援者だから、絶対に良い人だ」等というバイアスを取り払って、発言や文章をよく観察すれば、内容が頓珍漢な「残念な支援者」は数多くいます。

例の都知事候補氏のように、米ソ冷戦下の●●主義者は「ソ連は絶対に正しい」という前提ありきの、思考停止の状態で論理を展開したので、あのような頓珍漢やチグハグが見られたのだと思われます。
現代の「残念な不登校・ひきこもり支援者」は、
「自分は絶対に正しい(活動家気質の人などは『自分は●●主義者だから絶対に正しい』というバックボーンを下敷きにしている人がまま居ます)」や、
「現実に起こった事をありのまま解釈・咀嚼せず、『自分の描いた理想のシナリオ』に強引に当てはめて問題解決したと見做し、勝手に納得・満足してしまう」からこそ、頓珍漢やチグハグな言動・活動に陥るのだと思われます。
この自己満足的な「支援者」の理想シナリオも、能力不足で社会に適応できない現実から逃避する為に「弱者を支援する道」へ進んだり、能力以上の評価を社会に求める残念な野心家気質――弱者相手でなければ「人の上に立つ仕事が出来ない」、そして特定のイデオロギーを下敷きとして「支援者」の理想シナリオが描かれている場合もあります。

具体例を挙げればキリがありませんので、「例の元・都知事候補者の頓珍漢な発言」と類似したチグハグさの構図を、「支援者」と称する人・団体の発言や文章から見い出すテクニックを心に留め置いて下されば幸いです。